「資産運用の基本その1:長期保有について」では、資産運用における長期保有の有用性と、退職金運用という段階における長期保有の注意点と対応方法について書きました。
今回は資産運用の基本の2つ目として、分散投資の有用性について書いていきます。
分散投資とは。
「卵は一つのカゴに盛ってはいけない。」という格言をご紹介した記事にも書きましたが、投資の一点集中は危険度が高すぎるので避けた方が無難です。特に退職金を運用するようなステージに突入している方にとって、一点賭けのギャンブル的な行為は老後人生を崩壊させるだけの破壊力を発揮することがあります。
分散投資とは、文字通り投資先を分散することです。これにより、資産が全滅する可能性を極力減らし、運用資産全体の価格変動の大きさをコントロールすることができます。
主な資産クラスについて。
分散投資のためには、主な投資対象の種類と性質を知っておく必要があります。
主な投資対象
・株式
・債券
・不動産
・コモディティ(商品)
・暗号資産
・現預金
これらの分類を資産クラスと言います。各資産クラスの性質をざっくりと列記していきます。
株式
一般に価格の変動幅が大きい、つまりリスクが高く、その分期待リターンも高い投資先です。
株式を更に詳しく区分する方法として、
・日本・アメリカ・欧州・新興国といったエリア別
・小売業・半導体関連・薬品・自動車・金融・通信サービスといった業種別
・グロース(成長)株とバリュー(割安)株
・大型株・中型株・小型株といった時価総額および流動性による分類
・東証一部・東証二部・マザーズ・ジャスダックといった上場市場別
などの分類があります。
債券
一般に価格の変動幅が小さい、つまりリスクが低く、その分期待リターンも低い投資先です。
債券を更に詳しく区分する方法として、
・日本・アメリカ・欧州・新興国といったエリア別
・国(国債)・地方自治体(地方債)・一般事業会社(社債)などの発行体別
・長期・中期・短期といった期間別
などの分類があります。
不動産
一般に価格の変動幅が株式ほど大きくない、つまりリスクが比較的低く、そこそこのリターンが見込まれる投資先です。
現物の不動産投資は高額かつ流動性が低いことが欠点ですが、REIT(リート:不動産投資信託)という仕組みができたことで、少額で流動性の保たれた商品として手を出しやすい投資先になりました。
不動産を更に詳しく区分する方法として、
・日本・アメリカ・欧州・新興国といったエリア別
・オフィス・物流施設・商業施設・住宅・ホテルといった物件用途別
などの分類があります。
コモディティ(商品)
投資先として一般に使われている商品は、金・銀・プラチナといった貴金属、銅・アルミといった非鉄金属、原油、穀物などです。
それぞれ性質が異なりますが、需給関係で価格が左右されるものが多いです。
原油はコロナショックで価格が一時マイナスになるほど価格の変動幅が大きい商品です。
金については希少性を背景として、有事の際に価格が上昇する、いわば資産の避難先として歴史的に活用されています。
またインフレとはモノの値段が上がることですので、インフレへの備えとしてコモディティは有用な投資先です。
暗号資産
暗号資産は、歴史が浅いものの近頃は資産運用の候補として取り上げられるようになってきています。
いくつもの種類がありますが、投資対象として主に取り上げられるのはビットコインです。
価格の変動幅が大きく、発行枚数の上限が決められているという希少性もあって、価格が急騰・急落することがあります。
また通貨と違って発行母体の信用をベースにしていないという性質から、今後は有事の際の資産避難先として取り扱われる可能性も指摘されています。
現預金
価格の変動がないほぼノーリスクの資産であり、現在はリターンがほぼゼロに設定されています。減る心配をしなくて良い代わりに全く増えない、ということです。
生活資金の保管場所として欠かせないものですが、ノーリスクという点を資産運用に活用できます。
ただし現預金には重要な注意点があります。現預金は減りませんが、インフレの進行により実質的に目減りすることはあります。
日本では安倍前首相が2%のインフレ目標を掲げても全く実現できなかったほど、インフレとは無縁の期間が長く続いています。それでもここ最近はインフレを懸念する声が専門家からも出てくるようになってきました。
インフレとはモノの値段が上がることですので、これは裏返せば通貨の価値が下がることです。今100円で買えるモノが、インフレの進行により仮に10年後に200円に上昇していたら、現預金は半分に減ってしまったのと同じです。
株式や不動産、コモディティは価格がインフレに連動する性質を持っていますが、現預金はインフレには無力ですので注意が必要です。
分散投資の重要性とメリット。
分散投資は、「失っても良いと思える金額はいくらか?」を出発点にするのが本来のあり方だと考えます。その目安を試算する手法も存在します。これは説明が長くなりますので、改めて別の記事で書くつもりです。(記事を追加しました)
ここでは資産運用を始めるにあたって、分散投資の重要性を強調したいと思います。それは、株式1銘柄だけに投資するのは、全額失っても良いと思う方だけにしてください、というものです。
資産を失わないことが分散投資の最大の目的であり、それを可能にするのが分散投資のメリットです。
会社の価値は不祥事や事故によって一瞬でゼロ付近まで下がる可能性があります。これが10銘柄を保有している場合、その10社全てが連続して不祥事や事故を起こす可能性はぐんと減ります。225銘柄なら、あるいは500銘柄なら、一つや二つ価値がゼロになったところでマイナス影響はかなり小さくなります。
あるいは価値がゼロになる可能性がない資産クラス、例えば金や現預金の比率を多く持っておけば、失うかもしれない金額を減らすことができます。
もちろん、リスクを減らせば稼げる期待値も小さくなりますので、リスクと期待値のバランスをどのように設計するのかが分散投資のポイントとなります。
具体的な分散投資の方法。
具体的な分散投資の方法として、以下の3つの項目について説明していきます。
・インデックス投資を活用する
・値動きの異なる資産に分散する
・時間を分散する
インデックス投資を活用する
インデックスとは市場の動きを示す指数のことです。
例えば日本株では、日経平均やTOPIX(東証株価指数)といった指数はニュースなどで聞いたことがあると思います。
米国株では、ダウ平均やナスダック総合やS&P500などがあります。
世界全体の株式市場の指数としてMSCI All Country World Indexといったものがあります。
インデックスの算出方法はそれぞれ異なりますが、共通しているのは複数の銘柄の動きを平均して算出しているということです。日経平均は225銘柄、TOPIXは東証一部全銘柄(2,200弱)、ダウ平均は30銘柄をもとに算出しています。
インデックス投資とは、インデックスに連動するように運用されている投資信託に投資することです。例えば日経平均に連動するインデックス投資信託に投資すると、225銘柄に投資するのと同じ効果を得ることができます。
個人投資家が225銘柄もの個別株に投資するのはほぼ現実的ではないほど大変な労力が必要ですが、インデックス投資を活用することでそれが可能になるのです。
投資先の不祥事や事故で運用資産が全滅するような事態は、インデックス投資を活用すれば回避することができます。
また、個別株に投資するには、事前にその会社の事業内容や業績、財務状況などを調べ、将来の動向を予測し、今後も安定的に業績が推移するかどうかの確認や予測が必要です。これは大変手間がかかりますし、慣れていない方にはハードルが高い作業です。
インデックス投資にはこの手間をかける必要がありません。
もちろん日本企業全体、米国企業全体といった大きな視点での動向の確認と予測は必要ですが、事前にかける手間の大きさはかなり少なく済みます。
これは分散効果と並ぶインデックス投資の大きなメリットと言えます。
値動きの異なる資産に分散する
投資先には同じような値動きをするものがあります。資産Aが上がるときは資産Bも上がり、資産Aが下がるときは資産Bも下がる、というものです。
例えば業種の同じ銘柄の株価は同じように動く傾向があります。そうすると、同じ業種の銘柄を複数保有していても下がるときは一斉に下がってしまいます。
これではせっかくの分散投資の効果が発揮されません。
値動きが逆に動く資産に分散しておけば、一方が下がったときにもう一方が上がってくれるので、分散効果が高くなります。
株式と債券に資産を分散するというのが伝統的な分散投資のセオリーとされています。歴史的に、株式と債券は値動きが逆になる関係が続いてきたからです。
ただ昨今の低金利下では債券のリターンがあまりにも小さいことと、将来の金利上昇が見込まれる局面では株式も債券も同時に下がってしまう可能性があることから、債券に積極的に投資できる環境とは言い難い状況にあります。
不動産もコロナ後は株式との連動が高くなっていますし、値動きが株式と逆に働く資産が今はなかなか見当たらない、というのが個人的な感想です。
そうなると、値動きが無関係の資産に分散するというのが現状の次善策だろうか、と考えています。
具体的には、現預金とそれ以外の運用資産の比率で考える、というイメージです。
もちろん現預金の比率を高くすれば期待リターンが減りますので、リターンを上げたいならば株式や不動産という資産クラスを中心に、銘柄数を増やす効果のあるインデックス投資を活用して分散するのが有効だと思います。
時間を分散する
投資先を分散する以外に、投資する時間を分散するという戦略もあります。
時間をかけて一定金額を定期的に投資信託に積み立てる手法はドルコスト平均法と呼ばれ、その有効性が指摘されています。
ただ退職金を運用するステージにいる方の場合、この方法の有効性が薄くなります。
既に運用のための資産を保有しているにもかかわらず、投資に回らない多くの資産が遊んでしまうからです。
それでも、最初に全額投入するよりも1年くらい時間を分散して投資していくことは有効だと考えます。
これは獲得リターンを最大化するための戦略としては失格かもしれません。けれども、投資を開始した直後に暴落した場合など、投資初心者の精神的なダメージを回避し、資産運用に積極的に向き合っていく環境を醸成するという意味では有効だと思います。
獲得リターンを最大化するためには、投資期間は長い方が良いです。そのためには一日でも早く運用を開始するのが一番です。
けれども最初は値動きに一喜一憂してしまい、暴落すると気が滅入ってしまいます。20年くらい株式投資をしているMr.老眼は、今でも毎日の値動きに一喜一憂し続けています。それでも資産運用が嫌になることはありませんが、投資初心者だとどうでしょうか。きっと「こんな思いをするなら投資なんてやめる!」という方も出てくると思います。
そうならないために、1年くらいかけて少しずつ投資額を増やしていくことを提案したいと思います。最初の1年は資産運用に慣れるための1年、と考え、少しずつ実践しながら慣れていくのが良いのではないでしょうか。
まとめ
資産クラスの特性を理解し、投資の一点集中を回避するのが分散投資です。
分散方法にも色々な考え方があります。あらゆる資産クラスの商品を全て網羅して保有しなければいけないというものでもありません。特性を理解した上で、株式だけでよいと判断する人もいるでしょう。
特性を理解した上で株式に100%投資するにしても、現預金とのバランスを考えたり、株式の銘柄を増やし、業種を増やし、複数のエリアに分けて保有するなど、分散投資でダメージを減らすことを心掛けましょう。Mr.老眼も日々学び、実践していきます。